道端で

納品後、歩いていると道端で大きなカブトムシにつまづきそうになる。どこから出てきたのかカブトムシというものをしっかり見るのが初めてだったため、まじまじと観察してしまったのだけれど、虫を愛でる事によって人らしい感覚から離れるというのは、絶対あるなぁ、と思う。

「虫が好き、というより、人を好かないんでしょせんせい。ぼくがなんの虫に見えるのせんせい。夏休みの自由研究という名目で、自由に使えるお金を無尽蔵に国庫から引き出しつつ、子供の神経組織をこれ以上昆虫のそれと類推させないでせんせいの害虫。」
鎌倉の路上でせんせいは思わず、その子どもを網で捕獲し、ちょっとセンシュアルな感じで「テレビに出してあげるよ」と言おうとさえ思ったのだが、せんせいなりの抑圧が働き止めておく事にした。せんせい。俺は虫のせんせい。決してある時期、人の耳目と学術論文に怯んだ訳でなく、ひたむきに虫を愛しているだけのせんせいじゃないか。せんせい。そのせんせいが白昼の生放送で大きなハナアカギリカブトコガネのように無垢な男児を、ハナアカギリカブトコガネの生態がそうであるように露わなかたちで(ここでせんせいは半ズボンから伸びた男児の腿を見た)、虫として愛でてしまってはさすがに自己放棄すぎる。せんせい。
「でもせんせいのいいところは、投げやりで解剖学的に不適切なところじゃないか。そうでしょう。それで一山引き当てた、あなたは理系の星じゃないか。せんせい」
(この調子でSFを書いてるとどんな下らない事でも考えられる。。)