やわらかい花壇

古びた石が二段積んであり、それは深刻な黒色をしている。けれど内部に水を湛えているような気配もある。石の上面に苔がやわらかく密集して生えており、何か別の景色から切り出してきたように鮮やかだった。眺めていると空気を円に滲ませながら、それは黒色の縁を撫ぜて増える。どこまでも柔らかな増えかた。頂で白い色のチューリップが幾つか、起き上がるように花首をもたげる。確かに白い寝間着を着て起き上がるのは、こうした柔らかい場所でのことで、周囲は暑さも寒さもない(窓の外は水銀いろの雲で満たされている)


ばか話をしながらご飯を食べていて、前の日記に書いたようななんだかうさん臭い科学知について自分がなに考えようとしてたのか、もう一度構図をとりなおそうとする。
(私はそのばか話の間楽しくて幸福であり、あと一つ謝罪しなければいけない事があった事を思いだした。単に自分がもし教職についていて、半築なひととか変な人からなつかれたら迷惑なので、あまり大学のレクチャーとかで感情をむき出しにしない事にしているのだけれど、とある場所でそれをした事がある。その場には、もしこのソフトがなかったら文章を書きためる事を思いつきもしなかっただろうと感じていた記述ソフトのエピグラフの作者が居た。今福龍太先生。すみませんでした。後で変人に慣れてるんで大丈夫だよと言われたにしろ、30代にさしかかる女の人の自殺を扱った映画を見て、私は自分も無意識にそうなる事を強いられてるんじゃないかと感じてすごく辛かった。大体今の私は洗脳と不遇のせいで男ひでりの、ヒガミっぽいデブだしね。近年、というか二十歳を過ぎてから、一回も自殺したいなんて思った事はないのだけれど、自殺なんてよりオートマティックな事態になっていて、しかもここ6年くらいの自分が強いられていた、テレビに出てるタレント科学者に自由に考える権利を剥奪されてる状態も生きてても死んでいるようなものだし、プライバシーが機能しない生暖かさに疲れていて思わずヒステリーをおこした。
著作を拝読していて、今福龍太先生と田中純先生は、すごく幸せで茫然とさせる、本のイメージとある、と思う。ベンヤミンの「経験と貧困」というエッセーが、その時流とだけしか結ばれてない空っぽの文章ではないのと同じで。ちゃんと読む自由が確保出来ないのは自分の弱さのせいでもあったので、先生と書くのは横暴かもしれない。
田中先生のHPに載っている家づくりのレポートが、私は大変好きで、実務に役立ちかけたことがある。日塗工の色見本で排気孔の外部フードが塗装出来るお話を、ふーん、と思いながらありがたく読んだのだった。
 何か本を読むときに、読者でいる権利さえないような状態があるのかもしれ
ないと、よく思うのだけれど、私から本を読んで、その日の分量だけ考えて、
日記なり単に<考え>と呼べるものを書き留めるということを抜き取ったら、何も
残らない、と思う。実際は日中色々なことをして、別段人から聞かれて恥ずかしい事なんてなにもない程度に行動もしているのだけれど、嘘みたいにろくでも
ない扱いを受けることがある。
 茂木さんからは、カーテンメーカーの面接に受かった直後のブログにそういう
仕事の冷たくて取り澄ましてるのはいけすかないみたいなことを書かれた被害も
ある。余計なお世話というか、何を使って調べ上げてるのよ、という気分の悪さ
と、そもそもお前に私が何を好きかとか、どうやって暮らしていきたいかなんて
伝える気なんてさらさらない、という不快感で暫くまっとうに頭が働かなかった。(要は単に価値観が違うのだ。あと、企業の面接を受けて、計3社内定
貰って、書類選考だと最近は落ちなくなっていて…といういきさつがあるた
め、茂木さんのトレースは本当に迷惑なこと極まりない)。
 もう時効なので(?)書くけれど、私は短い期間、ソニー派遣社員として
仕事をしにいったことがある。盗聴と盗撮の被害はそこから始まっている。そ
んな中で仕事はまっとうにしていたので、賞でお金が出たりしたのだけれど、
派遣社員のプライバシーを完全にズタズタにする企業になぜ社会的制裁が加え
られず、私ばかり責められるのかいまだに理解できない。
 あと、前出の映画で自殺した女の子もそうだったのだけれど、まだ前途が
あって、考えようで自分の人生を意味のあるものにすることができ、具体的
な生活を思い浮かべることも出来る女の子を、むやみとわけの分からない所
に上納したり、脅かすような奇矯な女性団体を、私はおぞましいババア
だと思っている。
仕事をしながら、褒賞金を確か二度貰ったのだけれど、何で微にいり細にいり人の生活を把握してるの?という嫌悪感が強く、その後職場の上司との話し合いの記録を全部警察に持っていった(直属の上司は退社してしまっていた)。
多分、若い女で、文学だの芸術だのに関心があるから、プライバシーを剥奪して焚き付ければ色んな意味で「いい仕事」するんじゃないか、というもくろみがあったのだろうけど、普通にタチ悪すぎだよ、と思う。