パレス、パレス

 降り注ぐ小さい円状の緑を抜けて、鉄骨の腕が
伸びるコンクリートの建物を上がっていく。鉄骨の
腕は灰色だが柔らかく伸びていて、肌理が細かい。
上がりきったところで矩形に切り取られた空を眺めながら
その場所を取り囲む空気を言い表してみたくて、頭の中で
パレス、パレス、と二回言ってみる。硬いのに揺らいでいる
感じを表すには繰り返さないと駄目なのだった。と、中に
鋭い光の照明があって、不意にともる。豆電球くらいだが
つやがあり、銀色に光る光源。私はのどを痛めていたがその
光には何か身体をほぐすところがあり、じっと見つめていると
またゆれる宮殿のイメージが湧き上がってくる。中はきれいに
区画され、これも硬くて清潔な作りつけのベッドがあった。
(傍にはたんすがあって、冷たく洗われたシーツが幾枚も折りた
たんで重ねられていた)。
 空と街とが静かに重なる継ぎ目のところには、いつも宮殿が
あった。自分から名乗らなくても、それは見れば分かるのだった。
あるときは奥まった共同住居のひとつに注意深く隠されていたし、
あるときは川岸に打ち捨てられた小さいボートの中にあった。その
中ではものたち、みな周りの世界のことをよく眺め、聴き取っていた。


 電車に乗りながらボーっと文鳥とかセキセイインコとか飼いたいなぁ、
と思う。鳥の好きさについては全く説明がつかない。ひよこの正面から
見たのとか、うずらとか鳩も可愛いと思うのだけれども、大きくて大げさな
感じの鳥籠に手乗りの鳥を一匹くらい入れて飼ったら愉しいだろうなぁ、と
思うのだった。(でもエサをやり忘れたりしそうで怖い)。
 あの異常に鮮やかな水色の羽根の色がいいなぁ、と思う。(そういえば
昔ペットショップでアルバイトをしている時に、オレンジとか真っ青の
ヤドクガエルが面白かった。さすがに欲しいともなんとも思わないのだけれど、
指が可愛い感じ)。